Recalling Bayes' Theorem
定理を素早く思い出したりするために自分にとっての「定型」の問題を用意しておくことがままあります。
例えばベイズの定理の場合。「囚人問題」や「モンティホール問題」が特に有名なので、それを「定型」としている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
私が「定型」としている問題の一つは道具としてのベイズ統計に掲載されていた以下の問題です(第2章 3. 壷の問題を考える。p. 51)。
二つの壷a、bがある。壷aには赤玉が3個、白玉が2個入っている。壷bには赤玉が8個、白玉が4個入っている。壷aと壷bが選ばれる割合は1:2とする。どちらかの壷から玉1個を取り出したとき、それが赤玉であった。その赤玉が壷aから選ばれている確率を求めよ。
道具としてのベイズ統計
「壷aと壷bが選ばれる割合は1:2とする」の一節はどのように解釈するものなのだろう...? などと疑問に思い続けてはいますが、まあ壷は目の届かない場所にでも置いてあるんだろうななどとといいように解釈しつつ、長年付き合っています。
さて、壷aを選ぶ事象をA、どちらかの壷から玉1個を取り出したときにそれが赤玉である事象をRとします。問題が求めているのは、「どちらかの壷から玉1個を取り出したとき、それが赤玉であった。その赤玉が壷aから選ばれている確率」です。これは条件付き確率Pr(A | R)となります。
さて、ここでベイズの定理を書き出してみましょう。
同時確率Pr(A, R)は条件付き確率Pr(A | R)と周辺確率Pr(R)の積として計算できるのでした。同様に、同時確率Pr(R, A)は条件付き確率Pr(R | A)と周辺確率Pr(A)の積として計算できるのでした。
同時確率Pr(A, R)とPr(R, A)は等しいので、以下の等式が成り立ちます。
両辺をPr(R)で割って、
ベイズの定理を導くことができました。ここまでは簡単ですね。では、それぞれの確率に値を入れて計算してみましょう。
...うん、ここで少し立ち止まってみましょう。単純に確率の値を入れる前に、それぞれの確率がベイズの定理ではどのように呼ばれるかを復習しておきます。そのほうが効率的です。
左辺Pr(A | R)は求める確率です。
式を見れば一目瞭然、条件付き確率です。「どちらかの壷から玉1個を取り出したら赤玉であった」ときに「選んだ壷が壷aであった」確率です。ベイズの定理ではこれを事後確率(Posterior Probability)と呼びます。
右辺Pr(A)は「壷aが選ばれる」確率です。
ベイズの定理ではこれを事前確率(Prior Probability)と呼びます。右辺の中では一番重要です。壷の中がどのような状態になっているか知らなくても、その選ばれ方に関して何かしら事前に知っている情報だからです(どうです、重要そうでしょう?)。
右辺Pr(R | A)も条件付き確率です。
ベイズの定理ではこれを尤度(Likelihood。「ゆうど」と読みます)と呼びます。
この場合の尤度は、「壷aが選ばれた」ときに「取り出した玉が赤玉であることはどのくらいであるか」を示しますが、あまりこのように記載されることはありません。どちらかといえば、「壷aが選ばれた」ときに「取り出した玉が赤玉であることはどのくらいもっとも(尤も)らしいか」といったように記載されます。
最後に、右辺のPr(R)は規格化定数(Normalize Constant。証拠(Evidence)とも呼ばれます)などと呼ばれています。
この項はベイズの定理を考える上であまり活躍することはありません(これはベイズの定理を学んで行けば行くほどはっきりしてきます)。
さて、では実際に計算をしてみましょう。まずは事前確率Pr(A)です。「壷aと壷bが選ばれる割合は1:2」なのでした。そのため、壷aが選ばれるのは1 / 3ですね。
次に尤度Pr(R | A)を考えてみましょう。尤度は「壷aが選ばれた」ときに「取り出した玉が赤玉であることはどのくらいもっともらしいか」を示しているのでした。ちょっと何言っているかよく分かりませんよね。
こういうときは極端な例を考えてみるのも一つの手です。例えば、壷aの中には赤玉しか入っていないとしましょう。赤玉の数はなんでもよいです。流れに沿って赤玉が5個入っていると考えてもよいかもしれません。このとき、尤度はどうなるでしょう?
尤度は「壷aが選ばれた」ときに「取り出した玉が赤玉であることはどのくらいもっともらしいか」と考えるのでした。今は極端な例を考えているので、「壷aが選ばれる」と「取り出す玉は全て赤玉である!」と考えられます。先ほどの書き方をすれば、「壷aが選ばれた」ときに「取り出した玉が赤玉であることはたいへんもっともらしい」と考えておきましょう。
では壷aの中には白玉しか入っていない例を考えてみましょう。この場合の白玉の数もなんでもよいです。もちろん、白玉が5個は言っていると考えてもよいです。
先ほどと同様に考えると、「壷aが選ばれた」とき「取り出す玉は全て白玉である!」と考えられます。こちらは「壷aが選ばれた」ときに「取り出した玉が赤玉であることは全くもってもっともらしくない!」とでも考えられます。
どうでしょう、少し「もっともだ」という言い回しに慣れたでしょうか?
では元の例を考えましょう。「壷aには赤玉が3個、白玉が2個入っている」例です。
「壷aを選ばれた」ときに「取り出した玉が赤玉であることはどのくらいもっともらしいか」。5個のうち3個は赤玉ですから、「60%の確率でもっともらしい」と言うことができそうです。初めのうちはもっとカジュアルに、「赤玉を取り出すのは6割くらいでもっともらしいかな...」などと表現してもよいかもしれません。
さて、事前分布、尤度に関して考えました。後は規格化定数について考えれば計算できますね...ですがこのエントリではここでPr(B | R)について考えます。つまり、「どちらかの壷から玉1個を取り出したとき、それが赤玉であった。そのとき、その赤玉が壷bから選ばれている確率は如何ほどか」を考えます。もう少しお付き合いください。
Pr(B | R)はベイズの定理を用いて、以下のように計算できます。
AとBが入れ替わっただけです。簡単ですね。あまり重要視されていなかった分母に至っては変わりません。
事前分布Pr(B)や尤度Pr(R | B)も簡単に求めることができます。
事前分布も尤度も66.7%でした(これらが同じ値であることに意味はありません)。ここでまた例え話をしましょう。「壷aと壷bは同じ割合で選ばれる」としたらどうでしょう? 「どちらかの壷から玉1個を取り出したとき、それが赤玉であった」ら、「赤玉が出る尤度がより高い壷から取り出したのでは?」と考えるのがより自然ではないでしょうか? 尤度という概念を導入すると、何か人間の自然な思考で考えられるような気がしてきませんか。
もちろん尤度だけでは判断できません。例えば壷aが全て赤玉で詰まっていたとしても、つまり最高潮にもっともらしかったとしても、「壷aと壷bが選ばれる割合は1:100」であったら、壷aから玉自体が取り出される機会がそのものが大変少ないのです。
尤度と事前分布の積を取るのはそのためです。言い換えれば、「ところで全体からするとどの割合でもっともらしいの?」という問いの答えなんですね。ちょっと条件付き確率の考え方に似てますね。
では早速計算してみましょう。
積の値を比較してみたいですね。そのような場合は通分すればよいのでした。
その結果、9:20の割合であることが分かりました。
この割合は「どちらかの壷から玉1個を取り出したら赤玉であった」ときに「選んだ壷が壷aであったか壷bであったか」の割合でもあります。そのため、元の問題の答えもここから計算することができます。
少しトリッキーでしたが、規格化定数を使うことなしに事後確率、つまり「どちらかの壷から玉1個を取り出したら赤玉であった」ときに「その赤玉が壷aから選ばれている」確率を計算することができました。
どうやら事後確率は31%であるようです。事前確率、つまり「事前に情報がないときに壷を選んだら壷aである」確率が33.3%であったので、「どちらかの壷から玉1個を取り出したら赤玉であった」ことで確率が少し落ちたことになります。元々壷bから玉を取り出すことが多い上に、壷bのほうが少し尤度が高かったため、壷aから赤玉を取り出す確率が下がった、と考えるとよいでしょう。
まとめ
今回はベイズの定理について記載しました。
ほとんどの書籍は式を導いた後にすぐ具体的な例を解説していますが、自分にとっては
- どの項が「事後確率」「事前確率」「尤度」「規格化定数」を表しているか
- またその項の重要度はどうか
を頭に入れた後に読み進めたほうが理解が早かったように記憶しています。
どの分野を学ぶときもそうですが、自分の得意なパターンや例題を見つけるのは大事なように思います。理解できるなと思えるのは本当に嬉しいことですし、効率も上がるように思います。
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